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惜しまれながら引退した魁皇が、意外な心境を語りました。

今から振り返って、どのように感じますか?

■引退記者会見を終え、贈られた花束を手に笑顔を見せる魁皇＝2011年7月20日、愛知・名古屋市内のホテル【時事通信社】
http://www.jiji.com/jc/v?p=sumo-column_0054-02

　２０日、愛知県体育館近くのホテルで行われた記者会見。３８歳と３６１日の大関魁皇が、最後の航海を終えて港へ戻った大型船のようなたたずまいで、マイクの前に座っていた。　

　「何度も引き際をなくしてきて、本当にこれが最後の引き際だと思いました」　

　名古屋場所４日目、豊ノ島を下して通算勝ち星最多記録に並んだ瞬間、珍しく土俵上で気持ちを顔に表した。心底ほっとしたように緩んだ口元。記録達成の安堵（あんど）感とともに、頭をよぎった思いがあっただろう。これで辞められる－－。　

　この数年、引き際が頭を離れたことはなかった。３０歳を過ぎて相撲が好きになり、度重なるかど番も切り抜けたが、成績は大関の名にふさわしくなかった。

　国民的人気大関貴ノ花（初代）でさえ、星が上がらなければ「クンロク（９勝６敗）大関」とやゆされた時代なら、角界内部からも相撲マスコミからもとうに引導を渡されている。

　その方が、むしろ踏ん切りがついたかもしれないが、自分を取り巻く状況が変わってしまった。日本人力士のとりで。「中年の星」。内閣総理大臣顕彰まで受け、「魁皇」コールは場所ごとに大きくなった。　

　師匠の友綱親方（元関脇魁輝）も引き際が見えなくなり、「あんな体でいつまでも取ってたら、親方になって普通の生活ができなくなるぞ」と気をもむばかりだった。

引退記者会見で、魁皇は打ち明けた。　

　「通算最多勝ち星と騒がれて、自分も気になって。記録が目標になってしまい、達成してほっとしてしまった」　

　記録には無関心を通してきた魁皇にとっては、本意ではないかもしれないが、これでよかったと思う。私は「記録より記憶に残る」という言葉が、好きではない。プロ野球の入団発表などで新人が「記憶に残る選手になりたい」などと言うのを聞くと、今からそんな了見で一流になれるものかと思う。

　スポーツ選手は、ましてプロなら、勝つことと数字を残すことに全力を挙げ（もちろんフェアに）、その過程でこそ、人々の記憶に残る技術や振る舞いが身につく。「記録より記憶に残る」とは、精いっぱい勝利や数字を目指した人が引退した時に、ファンや周囲が努力をたたえて贈る言葉だ。

八百長問題で大相撲の記録は多分に色あせたが、記録に名が残ったことで、魁皇という力士を語り継ぎ、思い出す機会は増える。その意味でもよかった。　

　魁皇には「怪力伝説」とともに、優しい人柄を表す逸話が多い。以前、両国駅前から乗ったタクシーの運転手が、「魁皇はえらいねえ」と話しかけてきた。　

　魁皇と付け人を乗せた時のこと。距離は短かった。魁皇が先に降り、財布を預かっている付け人が料金を払おうとしたが、小銭も１０００円札もない。運転手が釣りを数えていると、助手席側の窓の外に人の気配がする。見ると、魁皇がすまなさそうにぺこりと頭を下げた。
　
　「細かいのがなくて悪いねって顔でね。普通は付け人に任せて自分は先に行っちゃうよね。あんなお相撲さんはいないよ。勝負師は優し過ぎてもいけないんだろうけど」

質問者：コモドドラゴン
質問日時：2011-11-11 16:30:45
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